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東京地方裁判所 平成3年(ワ)10397号 判決

主文

一  被告は原告に対し、別紙物件目録(一)記載の土地と同目録(三)及び(四)記載の土地との間に別紙添付図面(一)の現況平面図〈A〉から〈B〉にわたり設置した擁壁のうち、同添付図面(二)の平面図及び展開図に記載された二九・一〇〇メートルの部分について、同添付図面(三)ないし(六)の図面に基づく法面防護改良工事をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

理由

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要

本件は、原告所有地と被告所有地の境界に沿つて被告が設置した擁壁がその天端部分において約七二センチメートル原告所有地を侵害しているとする原告が、被告に対し、所有権に基づく妨害排除請求及び妨害予防請求として、又は被告との間の合意に基づくとして、右擁壁のうち侵害部分の撤去を求めるとともに、残存部分を基にした擁壁の法面防護改良工事の施工を求めるものである。

一  基礎となる事実

以下の事実のうち、証拠を挙示したもの以外は、当事者間に争いがない。

1  原告は、別紙物件目録(一)及び(二)記載の土地(以下、それぞれを「本件(一)土地」、「本件(二)土地」といい、その余の土地の表示も、省略するときは右例による。)を所有し、原告所有の別荘の庭園の一部として使用している。

被告は、別紙物件目録(三)及び(四)記載の土地を所有している。

本件(一)土地と本件(二)土地及び本件(四)土地の境界(以下「本件境界」という。)は、別紙添付図面(以下「図面」という。)(一)の〈A〉と〈B〉を右図面のとおり結んだ線である(右の線の北側が本件(一)土地、南側が本件(三)土地及び本件(四)土地である。)。

2  原告所有の本件(一)土地及び本件(二)土地と被告所有の本件(三)土地及び本件(四)土地は、以前は緩やかな丘陵状態で隣接していたが、被告が、一〇数年前、右の被告所有地を宅地造成のため原告に無断でほぼ本件境界に沿つて掘削した結果、右の原告所有地(高地)と被告所有地(低地)との間に二・四メートルもの段差が生じ、被告が、その斜面に簡易なコンクリート吹付けをしたままで放置したため、一部にひび割れが生じ、原告所有地が被告所有地側に崩壊する危険が生じるようになつた。

3  そこで、被告は、右コンクリート吹付けに代えて、間知ブロック積みの擁壁を設置することになり、昭和六三年七月三〇日、船橋市建築課に右擁壁工事の建築確認申請手続(以下「本件確認申請」という。)をし、同年八月一九日、右工事の確認を受けた。そして、被告は、大日本土木株式会社(以下「大日本土木」という。)に右擁壁工事(以下「本件擁壁工事」という。)を請け負わせ、同会社は、平成元年五月下旬ころ右工事に着手し、同年六月中旬ころ右工事を完成させた。

4  完成した擁壁は、本件(一)土地と本件(三)土地及び本件(四)土地との間に図面(一)の現況平面図〈A〉から〈B〉にわたり同図のとおり設置されたものであるが、そのうち図面(二)の平面図及び展開図に記載された二九・一〇〇メートルの部分(以下「本件擁壁」という。)は、その天端部分において、天端の法面の端が本件境界に沿う形で設置されたため、間知ブロック部分が約三三センチメートル、裏込め砂利部分が約三九センチメートル、合計約七二センチメートルの幅で、本件境界を越えて本件(一)土地内に入る形で設置された。その状況を断面図で見ると、図面(七)の各図について、「隣地境界線」(これが本件境界である。)と表示された線の位置が天端の法面の端に位置することになる。

5  ところで、被告が本件確認申請において提出した図面によると、本件擁壁は、天端部分においても、間知ブロック部分及び裏込め砂利部分を含めて、すべて本件境界に沿つて本件(三)土地及び本件(四)土地内に設置されるものとなつており、被告は、そのようなものとして本件擁壁について建築確認を受けていた。右図面のうち断面図を見ると、その状況は、図面(七)及び(八)のとおりである(右各図面の「隣地境界線」が本件境界である。)。

二  争点

1  本件(一)土地の侵害の有無並びに妨害予防請求の必要性及び相当性の有無

(一) 原告の主張

(1) 被告が本件擁壁工事において本件擁壁を本件確認申請のとおりの場所に(図面(七)及び(八)のとおりに)設置していたならば、本件擁壁は、本件境界より約七二センチメートル本件(三)土地及び本件(四)土地側(被告所有地側)に設置されることになるから、被告は、現状において、本件(一)土地について幅約七二センチメートル、長さ二九・一〇〇メートルにわたる面積約二〇・九五二平方メートルを原告の犠牲の下に不法に所得したことになり、原告は、同面積の土地を失つたことになる。

(2) そこで、原告は、被告に対し、所有権に基づく妨害排除請求として、図面(三)ないし(六)に基づき、本件擁壁のうち原告所有の本件(一)土地に侵入している幅約七二センチメートル、深さ一・一メートルの部分を撤去した上、妨害予防請求として、右各図面に基づき、現在擁壁の基礎部分から幅五五センチメートルの基礎工事を施して、もたれ擁壁を設置することを求める。

(3) 右もたれ擁壁を設置したとしても、被告は、本件確認申請のとおりに擁壁工事を施工した場合よりも、擁壁設置のための利用が不可能となる被告所有地の面積が約四・九四七平方メートル少なくて済み、しかも、右もたれ擁壁設置に要する費用は、五八一万三五〇〇円程度であるから被告にとつて、負担することができない工事代金でもない。

被告は、右擁壁工事により、宅地として活用することができなかつた所有地について、それが可能となり、計りしれない利益を得ることになる。これに対し、原告は、現状では、前記のとおり約二〇・九五二平方メートルの所有地を事実上失つているほか、もたれ擁壁工事が完成したとしても、右擁壁が高さ二メートルに及ぶ絶壁になつているため、その付近の利用が大幅に制限されることになる。

(二) 被告の主張

(1) 本件擁壁のうち、間知ブロックが約三三センチメートル原告所有の本件(一)土地内に入り込んでいるいるため、その限りで、原告がその所有地の利用を若干制限されることはあつても、右間知ブロックは、原告所有地の崩壊を防ぐためのものであるから、その円満な状態を維持するために役立つている。したがつて、右の程度の原告所有地の利用の制限は、いまだ右土地の所有権を侵害していないというべきである。

また、間知ブロックの裏込め砂利部分は、本件(一)土地と附合して原告の所有になつたものというべきであるから、裏込め砂利部分による原告所有地の侵害はない。

(2) 妨害予防請求の内容としては、原告の請求は行過ぎであり、従前のコンクリートの吹付けか、相当譲つたとしても、図面(九)程度のもので十分というべきである。

2  被告所有地内に擁壁を設置する合意の有無

(一) 原告の主張

被告は、本件擁壁工事に先立ち、昭和六三年七月八日、原告に対し、擁壁を基礎部分と含めてすべて被告所有地内に設置するとして、右工事のため、本件境界付近の原告所有地内の植木、生け垣、竹垣の一時撤去等の協力を求めたので、原告は、これを承諾し、本件擁壁工事の際は、被告に対し、約束のとおり協力した。

しかるに、被告は、右合意に反し、本件擁壁を前記のとおり原告所有地内に設置したので、原告は、被告に対し、右合意に基づき、前記1(一)(2)と同内容の本件擁壁の一部撤去及びもたれ擁壁の設置を求める。

(二) 被告の主張

原告主張の合意がされたことは否認する。

3  被告の原告所有地に対する占有権原の有無

(一) 被告の主張(仮定抗弁)

原告は、昭和六三年七月八日、同年九月二七日又は平成元年五月二日、被告に対し、本件擁壁を堅固に構築させるため、本件境界より原告所有地平面上のレベルで三三センチメートル幅の原告所有地(本件(一)土地の一部)を、被告が擁壁用間知ブロック設置のため無償で占有使用し、擁壁を構築することを明示又は黙示に承諾し、もつて当該土地部分について被告が間知ブロックを所有するために地上権を設定し、又は被告とその旨の使用貸借契約を締結した。

(二) 原告の主張

被告主張の事実は否認する。

4  妨害排除及び妨害予防請求の権利濫用又は信義則違反該当の有無

(一) 被告の主張(仮定抗弁)

(1) 原告には、本件擁壁の撤去を求める実際上の利益がほとんどない。すなわち、原告は、裏込め砂利部分の撤去は求めず、本件境界を越えて原告所有地内に設置されている間知ブロックの撤去を求めているが、本件境界を越えて設置されている間知ブロックは、本件擁壁の天端部分で幅三三センチメートル程度であり、天端部分から下方に行くほどにその幅は狭くなり、天端から下方一メートルほどのところでは原告所有地に侵入していないのであるから、右の程度の侵入部分を取り除いてみても、原告がそれによつて利用が可能となる部分は、ごくわずかであり、裏込め砂利部分はそのままというのであるから、その部分に植木を移植することもできない。

(2) これに対し、被告は、原告と何回も協議を経た上で、一二〇〇万円もの出費をして本件擁壁を設置したものであり、それが、被告のためのみならず、原告のためにも役立つていることは確かである。それにもかかわらず、被告に更に五〇〇万円もの出費をかけさせて工事をやり直させた上に、被告が利用することができる面積が約六平方メートルも減少することになるというのでは、被告の費用負担及び不利益が著しいといわなければならない。本件境界の崖は、被告が被告所有地を完成するために掘削したにしても、被告が費用を負担して堅固な本件擁壁を設置した以上、問題ブロックと裏込め砂利部分が原告所有地内に入るのを認めるのが妥当な解決というべきである。

(3) 以上の点を考慮すると、原告が所有権に基づく妨害排除及び妨害予防請求として、本件擁壁の一部撤去及びその主張のようなもたれ擁壁の設置を求めることは、権利の濫用又は信義則違反に当たるというべきである。

(二) 原告の主張

(1) 本件擁壁が原告所有地内に設置されているため、本件境界から幅約七二センチメートル、長さ二九・一〇〇メートルにわたつて原告所有地の利用が妨げられていることは、前記のとおりである。実際にも、原告は、被告の社員寮が建てられている被告所有地と目隠しのため及び防風・防砂のために必要な松や柾の木等の植栽をすることができずにいる。

(2) 被告は、一二〇〇万円もの出費をして本件擁壁を設置し、その上、原告の請求するもたれ擁壁の工事費用を負担することは、被告の不利益が著しいと主張するが、被告は、その所有地を平坦な宅地として活用するために本件境界付近を掘削し、これにより多大な利益を得る一方、原告所有地と被告所有地との間に約二・四メートルもの段差を生じさせ、原告所有地に崩壊の危険を惹起させたものであるから、被告の責任と負担において被告所有地内に危険防止の擁壁を設置すべきは当然のことというべきである。

第三  争点に対する判断

一  争点1のうち、本件(一)土地の侵害の有無について

1  前記第二、一、4で認定したとおり、本件擁壁は、その天端部分においては、天端の法面の端が本件境界に沿う形で設置されたため、間知ブロック部分が約三三センチメートル、裏込め砂利部分が約三九センチメートル、合計約七二センチメートルの幅で、本件境界を越えて本件(一)土地内に入る形で設置されているから、本件擁壁のうち本件境界を越えて本件(一)土地内に設置されている部分は、被告においてその部分につき右土地を使用占有する権原を有していない限り、右土地に対する原告の所有権を侵害しているものというべきである。そして、右侵害部分は、本件擁壁のうち、その天端の法面の端から垂線を下ろした範囲内の部分となる。

2  これに対し、被告は、本件擁壁のうち間知ブロックが約三三センチメートル原告所有の本件(一)土地内に入り込んでいるため、その限りで、原告がその所有地の利用を若干制限されていることはあつても、右間知ブロックは原告所有地の崩壊を防ぐためのものであるから、その円満な状態を維持するために役立つているとし、右の程度の原告所有地の利用の制限は、いまだ右土地の所有権を侵害していないというべきである旨主張する。

しかしながら、前記第二、一、2で認定したとおり、もともと原告所有の本件(一)土地及び本件(二)土地と被告所有の本件(三)土地及び本件(四)土地は、以前は緩やかな丘陵状態で隣接していたところ、被告が、一〇数年前、右の被告所有地を宅地造成のため原告に無断でほぼ本件境界に沿つて掘削した結果、右の原告所有地(高地)と被告所有地(低地)との間に二・四メートルもの段差が生じ、結局、そのために、原告所有地が被告所有地側に崩壊する危険が生じ、本件擁壁を設置するに至つたものであるから、被告による本件擁壁の設置は、専ら自己の先行行為に起因するものであり、このような場合に、一面において、それが原告所有地の崩壊防止に役立つているとしても、原告の承諾のない限り本来自己所有地に設置すべき本件擁壁を原告所有地にまたがる形で設置しておきながら、そのことを理由に原告所有地を侵害していないなどと主張することは、許されないというべきである。

また、被告は、本件擁壁のうち間知ブロックの裏込め砂利部分は本件(一)土地と附合して原告の所有になつた旨主張するが、本件のように土地の所有権の侵害の有無が問題となる場面において、侵害行為を組成する砂利部につき附合の論理でこれを土地所有者に帰属するものと解することは、侵害行為を法が容認するに等しい結果となるから、このような場合には、民法二四二条の規定の適用はないものと解すべきである。

二  争点3について

そこで、被告の原告所有地(本件(一)土地)に対する本件擁壁設置のための占有権原の有無について判断する。

1  被告は、原告は昭和六三年七月八日、同年九月二七日又は平成元年五月二日に被告に対し本件境界より原告所有地平面上のレベルで三三センチメートル幅の原告所有地(本件(一)土地の一部)を被告が擁壁用間知ブロック設置のため無償で占有使用し、擁壁を構築することを明示又は黙示に承諾した旨主張する。

そして、証人高松宏和は、右日時、殊に昭和六三年七月八日又は平成元年五月二日に原告に対し乙一の図面等を示すなどして本件擁壁をその天端部分の法面の端が本件境界に沿う形で、したがつて間知ブロックと裏込め砂利部分が原告所有地内に入る形で設置したい旨説明し、原告の承諾を得た旨供述するなど、被告の右主張事実に符合する証言をしている。また、右高松証言と併せると、乙三も右事実に沿うようにみえなくもない。

2  しかしながら、前判示のとおり、もともと原告所有の本件(一)土地及び本件(二)土地と被告所有の本件(三)土地及び本件(四)土地は、以前は緩やかな丘陵状態で隣接していたところ、被告が、右の被告所有地を原告に無断でほぼ本件境界に沿つて掘削した結果、右の原告所有地(高地)と原告所有地(低地)との間に二・四メートルもの段差が生じ、結局、そのために、原告所有地が被告所有地側に崩壊する危険が生じ、本件擁壁を設置するに至つたものであるから、このような本件擁壁設置に至る経緯に照らして、原告が被告側から本件擁壁をその一部が原告所有地に入る形で設置することの承諾を求められたとき、これに容易に承諾を与えると経験則上にわかに考え難いところである。そして、《証拠略》によれば、原告は、本件擁壁工事が始まつて間もなく、原告所有地が本件境界を越えて深く掘削されていることを知つて、現に、現場の工事責任者に対しクレームを述べていることが認められる。

ところが、前記高松証言をみると、昭和六三年七月八日の説明状況について、原告とは全く初対面の同証人が被告側を代表して原告に対し本件擁壁設置についていきなり前記のような説明をしたというにもかかわらず、原告はそれに対し何ら異論を述べなかつたなどと供述し、原告が右説明に対し苦情を述べたり、注文を出したりした形跡については何ら触れておらず、その後の原告に対する説明状況についても、その供述するところは同様であつて、極めて不自然といわざるを得ない。

これに加えて、被告の主張する原告の承諾は、被告に対し原告所有地の一部の使用権原を長期間にわたつて付与するという重要なものであるにもかかわらず、これを証する書面が原告との間で作成された形跡が証拠上何らうかがわれないこと、《証拠略》によれば、本件擁壁工事の完成後間もない平成元年八月二六日に被告の専務取締役の岸本重大が原告あてに差し出した手紙によつても、右工事による原告所有地に対する侵害についての原告側からのクレームに対し、原告側との十分な相互理解なしに工事に着工したこと及び施工業者に一任したことがその原因であるとして詫びており、そこでは、原告から事前に被告主張のような承諾を得ていたということは一言も触れられていないことが認められること、もともと証人高松は、本件擁壁工事の結果について、請負人である大日本土木の工事責任者として、これを擁護せざるを得ない立場にあり、その証言には信用性につき減殺要因があること、これに対し、原告本人及び原告が被告側から説明を受けた際に原告の介添えとしてその場に立ち合つた証人斉藤定男は、いずれも被告側から前記高松証言のような説明を受けたことを明確に否定しており、その供述内容に不自然な点はうかがわれず、右各供述は信用に値すること、以上の点を総合して判断すると、被告の前記主張事実に符合する前記高松証言は、到底信用することができない。

なお、《証拠略》によれば、原告が昭和六三年七月八日に被告側に対し本件擁壁設置工事のために原告所有地内の本件境界付近に植えられていた松の木一三本の移植や生け垣の撤去を承諾したことが認められるが、右各証拠に併せて、その当時の本件境界付近の写真である乙五を参酌すると、右の承諾は、単に本件擁壁工事の施工の妨げとなる松の木の移植等を承諾したものにすぎないと認められるから、右承諾の事実から直ちに被告の前記主張事実を認定することはできない。

また、乙三についても、その記載内容と証人斉藤の証言を併せ考えると、「この度の海神の崖工事につきましては、当方の意を十二分にお汲み下さり寛大なご配慮で進行いたし」という文言も、単に本件擁壁工事に伴う前記松の木の移植が無事完了し、その費用を被告に請求する上での通常の謝辞の域を出ないものというべきであるから、乙三から、被告の前記主張事実を認定することはできない。

その他、本件全証拠を検討するも、被告の前記主張事実を認めるに足りる証拠はない。

三  争点1のうち、妨害予防請求の必要性及び相当性について

以上によれば、本件擁壁のうち本件境界を越えて本件(一)土地内に設置されている部分は、右土地に対する原告の所有権を侵害していることになり、右侵害部分は、本件擁壁のうち、その天端の法面の端から垂線を下ろした範囲内の部分となる。

そして、本件擁壁のうちの右侵害部分を原告所有地から除去すると、右土地は崩壊の危険にされされることになるが、前判示のとおり、もともと右のような状況は被告の先行行為により惹起されたものであるから、原告は、被告に対し、本件(一)土地の所有権に基づき、右侵害部分の除去に伴う右土地の崩壊の危険を予防するための措置を求めることができるというべきである。

ところで、原告は、右の措置として、図面(三)ないし(六)に基づき、本件擁壁のうち、原告所有の本件(一)土地に侵入している幅約七二センチメートル、深さ一・一メートルの部分を撤去した上、現在擁壁の基礎部分から幅五五センチメートルの基礎工事を施して、もたれ擁壁を設置することを求めているが、右各図面の記載内容及び《証拠略》によれば、右もたれ擁壁工事の内容・程度は、工事費用の点も含めて妨害予防のためのものとして適切なものと認められるから、被告には、原告の妨害請求のとおりのもたれ擁壁を設置すべき義務があるというべきである。

四  争点4について

被告は、原告が所有権に基づく妨害排除及び妨害予防請求として本件擁壁の一部撤去及びその主張のようなもたれ擁壁の設置を求めることは権利の濫用又は信義則違反に当たるとして、るる主張するが、前判示のとおり、被告による本件擁壁の設置は、専ら自己の先行行為に起因するものであり、一面において、それが原告所有地の崩壊防止に役立つているとしても、原告の承諾のない限り本来自己所有地に設置すべき本件擁壁を、その承諾なしに原告所有地にまたがる形で設置していること、しかも、前記第二、一、5で認定したとおり、被告が本件確認申請において提出した図面によると、本件擁壁は、天端部分においても、間知ブロック部分及び裏込め砂利部分を含めて、すべて本件境界に沿つて本件(三)土地及び本件(四)土地内に設置されるものとなつており、被告は、そのようなものとして本件擁壁について建築確認を受けておきながら、自己の所有地の利用面積の拡大を図つて、原告所有地を侵害する形で本件擁壁を設置したものであることを考慮すると、被告の主張は、失当というべきである。

第四  結論

よつて、原告の請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 横山匡輝)

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